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破産手続中司法手続により生じた個別弁済に対する取消に関する略述
Tue Sep 23 13:06:00 CST 2014 発表者:

陳艷萍

 

 

  個別弁済行為とは、破産原因を具備した状況においてもなお、個別の債権者に対して弁済を行う行為を指す。我が国の『破産法』では、このような行為に対して、破産管財人に取消権を与えている。即ち、破産手続が開始された後、管財人は人民法院に、破産債務者が破産手続の開始前に法律で定められた期限内に実施し、債権者の利益に損害を与えた行為を取消すよう請求し、当該行為により発生した財産・利益を破産財団へ戻す権利を有する。 取消権は、債権者全員が破産財団から公平な弁済を受け、破産制度の機能を具現化するに際してなくてはならない役割を有する。このほど公布された司法解釈では、管財人が司法手続によって生じた個別弁済を取消すに当たり、いくつかの制限条件が追加された。本稿では、この問題について、以下の通り論述する。

  一、『破産法』における個別弁済に対する取消権の行使についての規定
  『破産法』第三十二条の規定によると、人民法院が破産申立を受理する前の6か月以内に、債務者に本法第二条第一項に定める事由があり、個別の債権者に対してなおも弁済を行う場合、管財人は人民法院にこれを取消すよう請求する権利を有する。但し、個別の弁済が債務者の財産に利益を与える場合を除く、となっている。『破産法』第二条の規定によると、企業法人が期限の到来した債務を弁済できず、且つ資産が全ての債務の弁済に不足し、又は明らかに弁済能力が欠如している場合は、本法の規定に従い債務を整理するものとする、となっている。          
  法律の条文から見ると、管財人が取消権を行使する場合、以下の四つの条件を満たさなければならない。一つ目は時間についての条件である。即ち、裁判所が破産清算を受理する前の6か月以内に弁済が発生したということである。二つ目は行為についての条件である。即ち、個別の債権者に対して弁済を行ったということである。三つ目は財産状況についての条件である。即ち、債務者が破産の原因を有するということである。四つ目は追加条件である。即ち、債務者の財産に利益を与えていないということである。前記四つの条件から見ると、債務者の主観的条件は問われていない。即ち、立法趣旨において、破産法では、債務者及び財産の受取人は主観的悪意があるかどうかを問わず、単に客観的な面において破産の取消権を行使できるかどうかが評価される 。また、破産法では、弁済の方式について制限されていない。即ち、債務者が自発的に行った弁済であろうと、司法手続による弁済であろうと、個別弁済行為という結果さえあれば、当該条文に規定されている行為についての条件を満たす。

  二、司法解釈における司法手続により生じた個別弁済に対する取消権の行使についての規定
  『中華人民共和国破産法の適用についての若干問題の規定(二)』第十五条によると、債務者が訴訟、仲裁、執行手続を通じて、債権者に個別弁済を行ったことに対して、管財人が企業破産法第三十二条の規定に基づき取消を請求した場合、人民法院はこれを支持しない。但し、債務者と債権者が悪意をもって通謀し、他の債権者の利益に損害を与えた場合を除く、と定められている。最高人民法院の条文についての解釈によると、当該司法解釈が包含する弁済には、実質的に、二つの面が含まれている。一つは、裁判所の民事判決書、民事調解書又は仲裁裁決書の効力が発生してから執行手続を開始するまでの間に、債務者が自発的に履行した、確定裁判文書に記載されている債務弁済義務によって生じた個別弁済である。もう一つは、前記の裁判文書の効力が発生した後、債権者が法に基づき執行手続を開始し、債務者が債務弁済を履行したことによって生じた個別弁済である 。
当該司法解釈の規定によると、破産法第三十二条に規定された取消可能期間内に、債権者が訴訟•仲裁•執行を通じて弁済を受けた場合、当事者に主観的悪意があることを明確に示す証拠がない限り、管財人は破産法第三十二条の規定により取消権を行使することができない、となっている。
  当該司法解釈は、破産法が取消権を行使する権利に対して制限を行い、司法手続を通じて個別弁済を行った場合、当事者の主観的悪意により取消権を行使することができるか否かについての条件を追加した。それに伴い、当事者に主観的悪意があることを明確に示す証拠がない場合、司法手続を通じて債務者が自発的に裁判文書に基づき弁済を行うにせよ、債権者が執行手続を提起し弁済を要請するにせよ、いずれも取消すことができない。即ち、一般債権者は破産手続中、本来得られないはずの完全な弁済を得る可能性があり、同じ立場にある債権者の同じ金額の債権に対して、異なる弁済を得るという結果を招く。

  三、司法解釈の意見募集稿と正式な文書との間の完全に相反する見解
  最高人民法院が2012年に公布した「中華人民共和国破産法の適用についての若干問題の規定(二)の意見募集稿」の第14-1条の規定によると、債務者が効力の発生した判決書、調解書又は仲裁裁決書に基づき個別弁済を履行し、管財人が取消を請求した場合、人民法院はこれを支持すべきである、となっている。また、第14-2条の規定によると、債務者が関連執行行為により個別弁済を行い、管財人が取消を請求した場合、人民法院はこれを支持すべきである、となっている。意見募集稿の内容からみると、裁判所は、一般的な状況において効力が発生した判決及び執行行為は取り消されるとの見解を一度とっていたが、最終稿では略全く逆の規定が出てきている。このことは、効力の発生した判決及び執行行為は取り消すことができるとの見解を否定する見解が最終的に優位になり得るということに原因がある可能性がある。当該見解によると、破産の取消権が対象としているのは民事上の主体間における民事行為であり、執行行為は公権力の行使に当たる行為であるため、執行行為を取消権の行使の対象にするのは、対象という点からみても、取消権の行使要件に適合しない。また、確定判決によって確認され、且つ執行が完了した民事行為に対して、なおも取消を主張した場合、当該民事行為を確認した確定裁判が依拠した基礎関係が変動し、当該確定裁判の効力の認定が困難となる。要するに、取消の対象が民事行為であろうと、執行行為であろうと、いずれも妥当ではない。

  四、本稿の見解
    1、取消というのは、債務の確定した効力を否定することではなく、弁済行為の取り消しを指し、確定判決の効力に影響を与えるものではない
  債務者が確定裁判文書に基づき、自発的に債務の弁済を履行した行為であろうと、債権者が裁判文書で執行の申請によって弁済を得たことであろうと、いずれも二つの段階が含まれている。一つは債務の確認である。もう一つは債務の弁済である。破産法第三十二条に規定されている取消が指し示しているのは債務の弁済に対する取消であり、即ち、管財人が効力の発生した裁判文書を取り消すことではなく、実際の個別の債権者に対する弁済行為を取り消すことである。そのため、確定裁判の権威性及び終局性に影響を与えず、確定裁判の確定力、拘束力は取消の後、如何なる変動も発生しない。変動があるのは執行力の実現方式のみで、本来の個別の執行を組織的な破産手続に変えて執行を行うということである 。即ち、債権者は債権の申告手続を通じて権利を主張することができ、個別の執行を破産手続に組み入れ、公平に配当が行われるのである。
    2、司法解釈は管財人による取消権の実施に対し制限を行っており、破産法の公平な弁済を受けるという基本原則と矛盾する
  司法解釈では、管財人の取消権の行使に対して制限を追加しており、債務者と債権者が悪意をもってひそかに通謀し、その他の債権者の利益に損害を与えた場合のみ、管財人は確定裁判及び執行行為に対して取消権を行使することができる、となっている。但し、司法解釈では、悪意をもってひそかに通謀することをどのように認定するかについて、踏み込んだ規定がない。例えば、破産原因が発生したことに債務者が気付いていたにもかかわらず、債務者が依然として債権者に弁済を行っていたということを証明しさえすれば、悪意をもった通謀であると認定できるのか、また、債権者が債務者の関連企業であるか又は債務者と特殊な関係にあることにより、悪意をもった通謀であると認定できるのか、挙証の面において、債務者が挙証すべきか、それとも弁済を受けた人が挙証すべきかについて、踏み込んだ規定がない。明確な規定がないため、実務において、管財人が取消権を行使することが困難となっている。このほか、裁判所が地方保護主義に基づいて行う執行及び債権者が裁判所と結託することは、いずれも個別弁済を生じさせ、その他の債権者の利益に損害を与えるが、債務者が悪意をもって通謀しないことが明らかであり、また、当該司法解釈における確定判決及び執行行為の取消に関する規定に該当しないため、管財人は取消権を行使することができない。
  管財人が効果的に取消権を行使することができなかった場合、即ち、異なる手続(訴訟手続、破産手続)により、異なる弁済割合を獲得することを意味し、公平性を反映させることができない。破産法の基本原則は、債権者が公平な弁済を得ることである。いわゆる公平な弁済というのは、同じ金額、同じ性質の債権が同じ割合で弁済を受けることにより具現化されるべきである。破産法第三十二条は、より一層債権者が公平に弁済を受ける権利を保障するために制定されたものであり、公権力の関与を理由に例外とすべきではない。当該司法解釈を適用した場合、破産法の基本原則と矛盾するという結果を招いてしまう。
    3、当該司法解釈の適用は訴訟争い及び破産制度の「破綻」を招きやすくする
  一般的な状況において、確定判決に基づいて自発的に履行した行為及び執行行為を取り消すことができなかった場合、必然的に債権者が先を争って訴訟で債務の弁済を要求するという事態を招き、債務者の財産が瞬く間に分割され、実際に破産手続に入る頃には、配当することができる財産がほとんどなくなり、債権者が公平に弁済を受ける機会が失われ、取消権によって破産財団へ戻すことができなくなる。債権者からすれば、訴訟手続により特定の債権者が債権額を超える弁済を受けた以上、必然的に破産手続を開始したいと考える債権者がいなくなり、破産手続も「破綻」に直面する。

    五、結びの言葉
  公平に弁済を受けることは破産法の最も重要な原則であり、当該公平性は実体的権利、即ち債権者が受ける弁済割合に反映させるべきである。司法手続において取消ができなくなることによって個別の債権者が債権額を超える弁済を受けた場合、その他の債権者にとって明らかに公平性が失われ、破産制度にとっても衝撃は非常に大きい。したがって、筆者は当該司法解釈における司法手続によって生じた個別弁済に対する取消権の規定には不適切な箇所があると考える。


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